野沢温泉

せぎを守る

信州一の温泉地として知られ、野沢菜漬け、スキー場、外湯めぐりなどが有名な野沢温泉。この温泉地のもう一つの魅力は、温泉街に縦横に張り巡らされている「せぎ(堰)」と呼ばれる用水路です。せぎの涼しげな水の流れと爽やかな水の音は、視覚・聴覚に心地よい、村の貴重な景観資産となっています。写真左は、石積みよう壁に沿ってつくられたせぎ。道路(右手)より高い位置にあり、魅力的な道路景観を演出しています。
 夏の時期には、せぎで釣りをする村の子供たちの姿を見かけます。山から流れてきた岩魚やヤマメを釣っているようです。

 せぎを流れる水は、毛無山に降った雨や雪が地中にしみ込み長い年月をかけて地表に湧き出る伏流水。地中で自然のろ過が行われるため、良好な水質の冷たい水が生み出されています。野沢温泉のせぎは、江戸時代から上水道としても活用されるなど、昔から生活用水として大切に守られてきました。現在は、農業用水のほか、冬場の雪かき(路上に積もった雪を、せぎに流し込み溶かす)や住宅の庭池用などに活用されています。
 毎年5月と9月には、室町時代から続くといわれる地域共同体「野沢組」により、「せぎ払い」「刈り払い」と呼ばれる管理作業が行われています。「せぎ払い」は、せぎに流れ込む水の源流である山中の水路の落ち葉や木の枝などを取り除く清掃作業で、「刈り払い」は、水路脇に育った雑草などが水路を塞がないように刈り取る作業です。
 野沢組は、村の温泉源や山林を長年にわたって守り続けてきた自治活動。村の有形・無形の財産を守る地道な組織活動がここにはあります。 

(2009年10月)