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Alsace (アルザス地方 / フランス)

 アルザスはフランス東部に位置し、ドイツとの国境に位置するライン川(東側)とヴォージュ山脈(西側)に挟まれた、フランスで最も小さな地方です。古くからヨーロッパの東西南北を結ぶ交易街道の十字路にあたり、歴史的にドイツとフランスの領土争いが繰り返されてきた地域でもあります。このため、まちの文化を守ろうとするアルザス人の想いには、とても強いものがあります。
この地域には、ローマ時代にワイン作りの技術が持ち込まれ、以後、ブドウ畑が拡大。西のヴォージュ山脈が大陸性気候による寒さと湿った空気を遮り、降雨量の少なさと恵まれた日照時間をもたらし、ブドウの生育に適した環境がつくられてきました。ブドウ畑の間には100余りの町・村が点在し、北のマルレンアイムから南のタンまで、約170kmのアルザス・ワイン街道が続いています。ボルドーやブルゴーニュと並ぶフランスの三大ワイン街道の一つに数えられています。

コロンバージュ

古くから、アルザス地方で採れる石材は限られていたため、民家の多くは木造建築で、木造の柱・梁等により軸組を組み立て、軸組のあいている部分を白い漆喰やレンガなどで埋めて壁をつくる真壁造りの「コロンバージュ(Colombages)」という木組み(木骨)の構造でつくられてきました。英語ではハーフ・ティンバー様式とも呼ばれています。(写真左:ベルグアイム(Bergheim))
アルザスのコロンバージュの家は、16~17世紀に建てられ、その多くは戦時中に壊されてしまいましたが、戦後、新たに多くのコロンバージュが建てられ、幸運にも難を逃れた古いコロンバージュの家々と調和した美しいまち並みが形成されています。家の中はリフォームが繰り返され、現代的な暮らしをしていますが、外観の伝統を守る習慣は脈々と受け継がれています。屋根は、積雪を防ぐため、急勾配の切妻屋根が多いですが、これはかつての革なめし職人がなめした革を乾かすためにこのような勾配となったともいわれています。
道に沿って建物が建ち並ぶ村や町では、個々の建物の階高、間口の広さ、壁面の色、屋根の形などに一定の統一感があることが、美しい家並みを形つくる上で必要な条件となる場合が多いですが、アルザスの村々では、これらの要素がバラバラに混在 ー 平屋もあれば5階建てもあり、間口の広いものもあれば狭いものもあり、壁面の色は赤、青、緑、黄色とカラフルに異なり、屋根の形状もまちまち・・・。それにもかかわらず調和のある町並み、魅力的な景観が形成されている要因には、多くの建物が伝統的なコロンバージュ建築を踏襲しながら、木材や漆喰などの天然の素材を大切にし、これらの素材が持つ視覚的・触覚的な肌合い/質感がまちなみ全体に感じられるところにあるからだと感じました。(写真右上:リクヴィル(Riquewhir))


アルザス最大の都市、ストラスブール(Strasbourg)には、16世紀のアルザス・コロンバージュ建築で最も美しいと称されてきた建物がありました。長い間改修せず放置されてきましたが、ストラスブール市の後押しにより、2009年5月、歴史的な文化遺産を残した現代風のホテル「Cour du Corbeau」として蘇りました。
その約1年後、視察を兼ねて宿泊。木組みの梁や柱は、樹木の緩やかなカーブの自然な形態がそのまま取り込まれており、水平・垂直にとらわれないデザインが落ち着きのある味わいを醸し出しています。近代的な設備の整った室内にも木組みの特徴を残し、また、古い建物であるが故の弱点(外からの日差しを取り込みにくい小さい窓や低い天井)を補うように、白いインテリアで広く明るくまとめられた快適な部屋へと生まれ変わりました。食事は、コロンバージュ建築と木調の手摺のついた優雅な回廊を眺めることのできる中庭で。アルザスの文化遺産に包まれた空間でいただくアルザス料理は格別のものがあります。(写真左上・右上:Cour du Corbeau)

自治体主導による「花のまちづくり」のお手本

フランスでは、50年以上の歴史を誇る「花のまち/村コンクール(Entente Florale)」が行われています。このコンクールは、1959年に政府観光局の主導で始まり、その後、国や自治体の専門家により構成される全国花委員会(CNFF)によって運営されています。現在、フランスの地方の町や村では、緑地や植栽を維持・管理する専門職が全職員の1割前後を占めるところも少なくありません。このコンクールの実施により、地域のアイデンティティが明確になり、市民の地域に対する愛着心やまちづくりの連帯感が高まったと評価されています。
そして驚くことに、アルザス地方では、このコンクールよりずっと前から、自治体と市民が一体となった花のまちづくりの取組みが、伝統的に行われていたとのこと。市民と行政が協力して、道路、水路、広場、公園から、各家庭の玄関先や窓辺に至るまで、あらゆる場所に草花を植え、入念に手入れし、感動的な「花溢れるまち並み」をつくり上げてきました。(写真左上:リクヴィル(Riquewhir))
日本では、1990年の「国際花と緑の博覧会(花博)」を契機に国や自治体の緑化政策・運動が活発になり、(財)日本花の会による「全国花のまちづくりコンクール」も開催されるようになりましたが、アルザスの花のまちづくりの例をみると、まちの緑化・緑地保全に対する日本とフランスの意識や取組みの間には、極めて大きな格差があると言わざるを得ません。

アルザスには、ワイン街道の「3粒の真珠」と呼ばれる、リクヴィル(Riquewhir)、リボーヴィレ(Ribeauville)、そしてカイゼルベルグ(Kaysersberg)という可愛らしい村々があります。リクヴィルとリボーヴィレは「フランスの最も美しい村(Les Plus Beaux Villages de France)」に選ばれ、カイゼルスベルグは、上記の「花のまち/村コンクール」の「花の村(Villes et Villages Fleuris)」に認定されています。(写真右:リクヴィル)
しかし、これらの村に限らず、アルザスのどこの村・町を訪れても、創意工夫を凝らした植栽の数々を目にします。花の種類、色彩、配列のセンスの良さや、草花と建物、噴水、柵、街灯などとのバランスの絶妙さ。まちづくりの文化の奥深さが、自治体主導の花のまちづくりの質の高さに表れています。



左・右:ベルグアイム(Bergheim)


左:コルマール(Colmar) 
右:オベルネ(Obernai)


左:ボアーシュ(Boersch)
中:カイぜルベルグ(Kaysersberg)
右:リボーヴィレ(Ribeauville)


左・中:リボーヴィレ(Ribeauville)
右:ゾウルツ(Soultz)



広場のメリーゴーランド

アルザスの町や村の広場ではメリーゴーランドをよく見かけました。アルザスに限らず、フランスの町の公園や広場にはよくメリーゴ―ランドが設置されています。メリーゴ―ランドの造りは、周囲のクラシックなまち並みと調和した、アールヌーヴォ様式などのアンティークで優雅なもの。特に面積の大きい広場では、ボリュームのあるメリーゴ―ランドの存在が景観的なアクセントとなり、広場の空間の質を高めています。
メリーゴーランドは、娯楽の少なかった時代に大人も遊べる施設として導入されましたが、近年は専ら子供たちの遊具となっています。日本の広場や公園で見かける所謂「三種の神器」と呼ばれていた「滑り台、ブランコ、砂場」よりもはるかに色気と動きがあり、大人が眺めていても飽きない遊具といえます。(写真左上:ストラスブール)

このようなメリーゴ―ランドは移動式のものが多く、様々な町の広場を転々とまわっています。アルザスで見かけたものは有料でしたが、なかには無料のものもあり、地域の子供たちが気軽に楽しむことのできる遊具として愛されています。(写真右:オベルネ)
実は、メリーゴーランド発祥の地はフランス。1860年頃に蒸気機関で動かしたことから始まり、その後、世界中に広まりました。発祥の地ならではの歴史と誇りを引き継いだ都市のアメニティ。ヨーロッパの中でも、特にフランスの広場にメリーゴーランドが多い理由が分かったような気がします。
(写真左下:パリ、エッフェル塔脇)



(2010年7月)